総括原価方式の電気料金を考える、再生可能エネルギー事業に未来はあるのか…

再生可能エネルギーの普及に向け、費用負担のルールを決める議論が紛糾している…

こう報じられたのが今年1月のことで、これは、今後の日本における再生可能エネルギー普及にとっては、とても重要な話となります。

焦点は、送電網の維持費用を誰が負担するのかという問題です。

これを語る前に、電気料金の仕組みを考察する必要があります。日本の電力業務独占の実体、そこから言われる発送電分離、そして電気料金のあり方を考察していく必要があります。

先ずは発送電分離を考える…

電力会社は、発電と送配電、つまり、電気を作る事業と、電気を各家庭や事業所に届ける事業を独占してきました。

発電に関しては、火力や水力、問題となっている原子力がありますが、地球規模で注目されているのが、再生可能エネルギーと呼ばれる「発電」方法です。

再生可能エネルギーと言えば、太陽光発電やバイオエネルギー、風力発電や地熱発電などですね。

エネルギーを作り出す会社は、今の電力会社以外にも多く誕生しました。個人家庭での太陽光発電による売電、余剰電力を買い取ってもらうのも、発電事業の一環ですね。

いくら電気を作っても、消費者に届かなければ意味がありません。

この大事な電気を届ける「送配電」事業だけは、電力会社が独占してきたのです。

再生可能エネルギー普及は、電力会社の協力がない限りありえないという事になります。

電力会社に送配電を拒否されたら、再生可能エネルギーの普及はないのです。

実は、ここまで再生可能エネルギーが普及しなかった要因として、この送配電を、発電事業者である電力会社が、送配電提供を渋っていたからだという指摘もあるのです。

そこで、この送配電事業を発電事業も行う電力会社が独占することを見直す動きが出ていました。それが「送配電分離」の議論です。

2020年4月、「電力システム改革」第3段階として、送配電事業の中立性を高めるために、規模の小さい沖縄電力を除いて、一般送配電事業者は、小売電気事業や発電事業を兼営することが禁止されます。

事業を独占している電力会社から、送配電事業を分離することになります。

第3段階が今年4月からスタートしますが、それまでに、「電力システム改革」は2段階が経過していました。第1段階から第3段階までを整理しますと

第1段階 電力広域的運営推進機関の創設
第2段階 小売全面自由化
第3段階 発送電分離

そもそも、なぜ「電力改革システム」が登場してきた背景を探ってみましょう。

登場したきっかけは、東日本大震災の発生、およびそれによる原子力発電所事故です。

大規模集中電源の停止に伴う供給力不足や、計画停電等の画一的な需要抑制といった、現行の電力システムの課題が顕在化しました。

さらに、多様な電源と全国的な電線網を活用することが不可避となり、さらに、原子力発電依存度が下がり、電気料金上昇を抑える必要が出てきたことにあります。

こうした課題解決のため、2015年~2020年の間に3段階に分けて「電力システム改革」が行われることになりました。

この改革の目的として
 ・電力の安定供給の確保
 ・電力料金上昇の抑制
 ・需要家の選択肢拡大と事業者へのビジネスチャンスの創出
を挙げています。

「独占」という言葉が、「電力改革システム」のキーワードとなっています。

現在は、各地域につき、ひとつの電力会社が「発電」「送配電」「小売」という3部門を一貫して提供するという、地域独占の形態にあります。

「小売」に関して、電気料金算出は、発電や送電などにかかったコストに応じて金額が決まる「総括原価方式」がとられています。

これにより、電力会社が行う設備投資費用を、確実に回収できることが保証されているのです。

「総括原価方式」は、電力を、広くあまねく安定して供給しなければならないという使命のもとで、電力会社が潰れてはいけないというのが、根柢にある制度だと言えそうです。

原子力発電所維持費用も廃炉にかかる費用も、すべて電力料金を計算する際に考慮されているのです。

総括原価方式に基づく電力料金

今の電気料金は、電力会社の設備投資費用に報酬を上乗せして決められています。

平たく言うと、かかった経費はすべて、使用者に等しく負担してもらい、報酬も払ってもらうというもので、「総括原価方式」は、電力会社にとって、とても有利なシステムになっています。

元々は、「総括原価方式」は、基幹産業である電力会社を保護する目的で作られたからだと思われます。

数式の形で表すと

    電気料金 = 原価 + 報酬

となります。

原価に当たるものとして

・発電所や送電設備の建築費保守管理費用
・燃料費用
・運転費用
・営業費用(人件費、諸経費)

とにかく、全てのコストが含まれます。

報酬としては、発電所などの事業資産額と研究開発などの投資額に一定割合(3~5%前後。会社およびその年によって異なる)の事業報酬率をかけて出します。

投資額は、具体的には、固定資産、建設中資産、核燃料資産、運転費、特定投資(研究開発や資源探査など)とあります。

いずれにしても、電力会社は人件費や燃料費などの費用にこの報酬を上乗せし、家庭向け電気料金を決めるための「総括原価」を出しています。

一般企業では、会社の利益から設備投資費用を捻出しますが、電力会社の場合は、かかった費用全てを、電気消費者に払ってもらうわけですから、いわゆる「無駄な設備投資」が増えることが、問題点として挙げられます。

だからあんなに原発施設を造っても電力会社は大丈夫なわけで、稼動していない原発施設があっても、維持費は電気消費者が負担するので、電力会社としては問題ありません。

2011年の3月11日に起こった福島第一原子力発電所事故の後、この「総括原価方式」によって事故処理費用を電気料金に転嫁できるため、批判が起こりました。

原発事故に関する賠償金も、電気料金に上乗せされます。

したがって、福島での不正な賠償金請求詐欺が社会問題となっていますが、電力会社が不正請求を、何の精査もせずに支払ったとしたら、それも全て私たちの電気料金に跳ね返ってきます。

事実、電力会社賠償金対応のマンパワー不足等による対応が大きな問題とされています。払わなくて済む賠償金が支払われているというのです。

「総括原価方式」では、電気料金は高止まりしたままとなり、今のままでは安くなることはないでしょう。

また事業報酬は、発電所などの事業資産額と研究開発などの投資額に一定割合(3~5%前後。会社およびその年によって異なる)の事業報酬率をかけて出しますので、事業資産額が膨らめば、その分、報酬額は多くなります。

「原子力発電所を造れば造るほど、電力会社が儲かる仕組み」と言われるゆえんは、ここにあります。

ちなみに、太陽光発電等による固定価格買取制度(FIT)での買取金額も、電気料金に上乗せされています。

発電側基本料金の導入

ここまで、再生可能エネルギー普及を考える上でおさえておきたい
    送配電分離
    「総括原価方式」による電気料金算定
について考えてきました。

今回、話題になっているのが「発電側基本料金」の導入です。

「発電側基本料金」とは、全ての発電事業者に対して最大出力(kW)に応じた基本料金を課金するという新たな課金システムで、現在、経済産業省が導入を検討しており、特に太陽光発電事業者の注目の的となっています。

再生可能エネルギー普及にむけて、送配電網維持費用負担を国民に求めるのではなく、再生エネルギー事業者側が負担するというものです。

これが導入されれば、太陽光発電事業者は10年間で総額約1兆円もの負担が増えるとの、民間事業者試算からの試算もあります。

当然、再生可能エネルギー事業者は、国内事業者だけでなく海外事業者からも、「聞いていない」「後だしじゃんけん」と、この制度を非難しています。

国民負担が増えるわけではないので、話題としては広がってはいませんが、業者負担が増すことで、今後の再生可能エネルギー普及にむけての足かせになることは懸念されます。

すごく穿った見方をすれば、国は、あるいは、電力会社は、本気で再生可能エネルギーを普及させたいと思っているのかというところも問われそうです。

さて、エネルギーを作ってから各消費者に届けるまでの過程をおさらいしてみましょう。電力は、送配電設備を通して

  発電事業者 → 送配電事業者 → 小売電気事業者 → 一般消費者

という流れになっています。

送配電網維持費用とありますが、前述の「総括原価方式」で、「託送料金」として一般消費者が負担しています(多くの人は知らないことだと思います)。

この送配電設備の老朽化に伴うリペア費用がかかることが想定されます。それを、国民に負担させるのではなく、また電力会社が負担するでもなく、発電事業者に、将来のリペア費用を前倒しで少しずつ徴収しておこうというものです。

これは再生可能エネルギーに限るもので、火力や原子力など昔からある電気は、小売り電気事業者への卸価格に転嫁できる「調整措置」というものができるため、その影響が少ないと見られています。

太陽光発電等による固定価格買取制度(FIT)導入時の、2012年7月から2015年6月の利潤配慮期間は「プレミア価格」として買い取り価格が高かったので、再生可能エネルギー事業者は十分に儲かっているだろうという、そんな狙いから編み出されたのが、今回の「発電側基本料金」という訳だとも言われています。

電気料金の仕組みに関しては、おそらく多くの人は知らないでいると思います。

「総括原価方式」を知り、電気が作られ送られる仕組みを知り、そして、この国の再生可能エネルギーに関する取り組みを知ることで、日本の社会構造を理解して、これからの自分の立ち位置を探るきっかけにしていきましょう。知ることは大事です。
「知っている」と「知らない」では、そのさきの未来が大きく異なってくると思いますよ…

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