山形市老舗百貨店「大沼」破綻、その背景には消費増税の影響と奇妙なお金の流れが…

老舗がまた一つ消えた…

元禄13(1700)年創業の老舗百貨店「大沼」…山形市にある、日本百貨店協会加盟の県内唯一の百貨店で、現存する 百貨店 では、1611 年創業 の 松坂屋 、1673 年創業 の三越に次ぐ 、日本で3番目に古い老舗です。

やまがた大沼デパートは、県庁所在地最初の日本百貨店協会加盟店破綻となります。

負債総額は大沼が約30億円、大沼友の会は現在調査中とのことです。 

大沼は全店舗で営業を停止しましたが、従業員の再雇用のめども立っていないとのことで、約5億円の退職金や1月分の給与も払えないことから、国の支援制度を頼みにするなど、地域経済への影響は計り知れないとされています。

消費者にとっても深刻で、新年度に入学する小学生のランドセルや中学生の学生服の注文を受け付けていたものが、制服の一部は業者に対する支払いが終わっておらず、品物が購入者に引き渡されない可能性も出てきました。

使っていない買い物券が4万5000円分くらいある。少しでも戻ってくるといいんだけど…こんな声も聞かれます。

これに対し、長沢光洋代表取締役は「破産管財人の指示に従う」と述べるにとどまったことで、今後の混乱が心配されます。

山形市としても、一企業の倒産として見過ごせないでしょう。

破綻の理由として

・2019年10月の消費増税による売上減
・投資事業会社「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」からの
 資金還流

としています。

消費増税が破綻に追込む…

山形県の人口は114万人、県内総生産(都道府県別GDP)は3兆7390億円、平均年収約383万円(都道府県ランキング43位)、平均月収26万7500円、平均賞与(ボーナス)61万9200円です(2018年)。

東京都の平均年収が約622万円、東北トップの宮城県約460万円と比べると、いかに地域格差が大きいかが分ります。

大沼がある山形市(県庁所在地)での平均所得は、309万円となっています(2018年)。

驚くのは時給の低さで、山形労働局によれば、山形県の最低賃金は時給790円となっています。

これは、東北の青森県、秋田県、岩手県、山陰の鳥取県、島根県、四国の愛媛県、高知県、九州の佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県と沖縄県も、同じ全国最低の時給790円となっています。

九州も最低賃金は低いですが、山形県ほどの悲惨さを感じないのは何故でしょう。

観光を含め地方自治体のアピール力の差なのか、それとも、除雪費用がかさむ地域特有の事情があるからなのでしょうか。

ちなみに東京都の最低賃金は、時給1,013円となっています。

ようは消費増税は、賃金の低い地方にとっては死活問題に等しいということです。

また時給計算の非正規雇用やアルバイトといった雇用形態では、地方ほど生活が厳しくなることが伺えます。

その分、物価が安ければいいのですが、政府のインフレ目標設定による経済政策では、物価を上げる政策がとられますので、地方には、かなり厳しいものになっていることでしょう。

円安誘導で「コストプッシュ」型インフレ(仕入れ価格等の値上げによる販売価格引上げ)による物価高は、賃金が上がらない中で、ましてや低い賃金である地方では、家計に重くのしかかってきます。

そこに消費税率引き上げです。

逆進性(高所得者ほど負担が軽く感じられ、低所得者ほど負担が重くなる)が問われる消費税ですからね。

今回の「県庁所在地最初の日本百貨店協会加盟店破綻が山形市の大沼」というニュースを、そこに住む人々の経済状況と照らし合わせて考察してみました。

やはり、地方の賃金の低さは致命的で、地域格差、都会と地方の格差は圧倒的であることがわかりました。

フォンドによる奇妙なお金の流れが…

もう一つの破綻理由としてのファンドによる資金還流があります。

経営悪化を受けて創業家が2017年12月、投資ファンドへの経営譲渡を表明し、金融機関から債権放棄の同意を取り付けた上で2018年4月に実行されましたが、今回、ファンドは出資金を自社に還流し、そのことにより資金不足が明るみに出たため、佐藤孝弘山形市長や山形商工会議所会頭らが、買い支えを市民に呼び掛ける異例の事態になっていました。

山形の百貨店「大沼」は、再生を依頼したこのファンドとは、経営権をめぐる対立の結果、決別しています。大沼側からファンドを追放した格好になっています。

今の長沢社長は、ファンドから解任された後に、戻ってきたようです。

そのファンドとは、投資事業会社「マイルストーンターンアラウンドマネジメント(MTM)」です。

日本初の本格的「事業再生支援会社」として2005年、日本政策投資銀行などの出資により、鳴り物入りで設立されたのが「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」です。

「事業再生ファンド」のパイオニアとして業界の注目を集め、「本間ゴルフ」や「ラオックス」などの難しい案件を見事に再生したと評されてきました。

ただ、最近では、再生事業が破綻の危機に直面していることがささやかれていました。

政策投資銀行(DBJ)は政府100%出資の国策銀行で、投資事業会社「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」への出資だけでなく、同社が手がける事業にも資金投入しています。

このことは、事業再生が失敗すれば、国民の財産が毀損されることを意味することになります。

現在、マイルストーンターンアラウンドマネジメントが手がけている再生企業は、箱根の老舗旅館「俵石閣」、東日本大震災の影響でガス爆発した岩手県の商業施設「ななっく」、そして「大沼」でした。

どれも再生が厳しいとされています。

19日の山形新聞によると、総額3億円の「大沼」への再生資金の大半は、投資事業会社「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」の資金繰りのために還流されていたことが分かりました。

関係者によると、3億円は出資当日から翌月にかけて、マイルストーンターンアラウンドマネジメント側にコンサル料名目で約5400万円が流れ、約8600万円が弁護士費用などに充てられ、さらに「仮払金」として1億1800万円が、マイルストーンターンアラウンドマネジメントに渡ったというのです。

この、再生事業開始後に、総額3億円の再生資金のうち2億5000万円以上がマイルストーンターンアラウンドマネジメント社へ瞬間蒸発しているという、いったいなぜこんなことが起こるのでしょう。

長沢社長は記者会見で、この資金の出入りに関して

マイルストーンターンアラウンドマネジメント(MTM)から引き受けたその日(2018年5月)に辞めようかと思った。資金の入れ方、抜き方はおそらく金融商品取引法違反ではないかと考えたが、MTMから「必ず戻すから」と言われ、信じてしまった…

と語っています。

事実、これで「大沼」は破綻申請に追込まれました。

政策投資銀行(DBJ)が絡んでいるだけに、この不可思議な資金の流れは、実に政治的な臭いがしてならないのですがね。

選挙もあることですからね。

変われなかった経営側…

もちろん経営側の問題もあると思います。

暖冬の影響もあって婦人服のコートなどが売れず、昨年10月から背筋が寒くなるほど売り上げが悪化したという事情も分ります。

百貨店内は閑散としていました。恐ろしくなるほどの静けさだったとのことです。

従来の百貨店形態からの脱却はままならず、市場環境や消費スタイルの変化に対応できなかったということは否めないでしょう。

人口減少や少子化、インターネット通販の普及などにより、全国の地方百貨店は、どこも存続の危機に陥ってることは、前から分っていたことです。

高額衣料から食料品までそろえる百貨店形態は限界となり、新たなビジネスモデル構築が必須だったことは、ずっと指摘されていたことです。

なかなか変われない…老舗ならではの悩みなのでしょうか。

地方の、一つの老舗百貨店が歴史の幕を閉じるというだけの話では、どうやらとどまらなさそうです。

すごく奥が深く、いろんな問題が絡んでいて、また新たな問題も生まれそうな出来事のような気がします。

山形市の「大沼」という百貨店破綻から見える地方の疲弊や社会問題、そこに取り巻く奇妙なお金の流れ…

いろんな意味での、日本が抱える問題の縮図のような気がします…

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