年金制度改革関連法 が成立 …多くのパート労働者が厚生年金に加入、年金受給開始を75歳まで拡大

コロナ禍の国会で、29日、参議院本会議で「年金制度改革関連法」が、自民・公明両党に加え、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会など与野党賛成多数で可決、成立しました。

可決・成立した年金制度改革関連法では、より多くのパート労働者などが厚生年金に加入できるように、この条件が見直されることが話題になっています。

今回の改正は、働き方が多様化し、高齢者の就業機会が拡大していることに対応するとともに、年金財政の安定化のため支え手を増やすねらいがあります。法律の主な部分は、再来年4月に施行されます。

可決した年金制度改革関連法案の主なポイントは

  1. 厚生年金適用範囲拡大
  2. 在職老齢年金見直し
  3. 受給開始年齢選択肢幅を75歳まで拡大

となっています。

現在、非正規労働者には、厚生年金加入条件があります。

  • 週20時間以上働くこと
  • 給料が月額88,000円以上(年額106万では判断しません)
  • 501人以上の従業員がいる会社で働く
  • 1年以働くことが見込まれる
  • 学生ではない

ことが条件です。

週当たりの勤務時間が正社員の4分の3以上(概ね30時間以上が目安)、または、月あたりの勤務日数が正社員の4分の3以上の場合は、厚生年金加入は義務付けられます。働き方によっては、厚生年金加入は義務付けられます。

非正規労働者とは、パートタイマーや嘱託、臨時雇用、および派遣労働者や請負労働者のことです。

パート労働者 厚生年金

厚生年金適用範囲拡大

より多くのパート労働者などが厚生年金に加入できるように条件が見直されます。

現在、従業員が「501人以上」の企業には、厚生年金加入を義務付けていますが、その従業員数の縛りを「51人以上」とすることで、いまいる非正規労働者の約60万人が、厚生年金に加入することになります。

これは、雇用側に、非正規労働者を厚生年金に加入させるように促がしているもので、雇用者から見れば、ある程度の従業員規模も会社で働かないと厚生年金に加入できなかった非正規・パート労働者は、ある程度の従業員規模の会社で働いても、厚生年金に加入できるようになったということです。

厚生年金加入の義務付ける企業の規模は、段階的に見直されていきます。

2022年10月に「101人以上」に、2024年10月に「51人以上」まで、2段階で引き下げます。保険料の半分は企業が負担するため、負担が増える中小企業に配慮し、段階的な引き下げとしたと説明していますが、企業側の負担が増えるという事実は変わりません。

厚生年金加入条件を、従業員数「101人以上」にした場合、新たに45万人が、「51人以上」にした場合、65万人が適用対象となると見込まれています。いわゆる「就職氷河期」世代の非正規雇用の人などの低年金対策につなげるねらいもあります。

年金制度改革関連法案は

  • パートタイマーなど非正規労働者が将来受け取る年金額を底上げ
  • 保険料を負担する制度の支え手を増やす

この2つをその目的としていますが、本音が後者にあるとしたら、厚生年金の適用範囲をさらに拡大することも予想されます。

今回の改正に向けた議論の過程では、「雇用されている人は原則、すべての人が厚生年金に加入できるようにすべき」だとして、企業規模の要件そのものを撤廃すべきだという意見も多く出されました。

企業規模の要件を撤廃した場合、新たに125万人が適用対象になるということです。

今回の改正では、保険料負担が増える企業側に配慮して、撤廃は見送られましたが、年金制度維持のために保険料負担者を拡大したいとするなら、さらなる適用拡大は今後の検討課題となりそうです。

年金制度おさらい

年金制度は、会社に勤めている人も自営業者も全員が対象となる「国民年金」と、勤めている人だけが対象となる「厚生年金」があります。

正規社員は、入社したときからこの両方に加入していることになりますが、正規社員でなければ「国民年金」だけとなっている場合が多いのが現状です。

国民年金だけだと、65歳から受け取る年金額は、月額約6万5000円、正規労働者の場合は、厚生年金と合わせて、平均でも月額で約30万円前後となります。

今回、厚生年金加入対象者を拡大しました、その背景には、現在の非正規労働者の低年金問題に対処する目的があるとされています。

もう一つの見方として、年金制度を支える人を増やす、つまり年金保険料負担者を殖やす狙いもあるようです。

繰り返しますが、年金制度改革関連法案は

  • パートタイマーなど非正規労働者が将来受け取る年金額を底上げ
  • 保険料を負担する制度の支え手を増やす

この2つをその目的としていますが、本音は後者に重きがあるのではないでしょうかね。

会社負担が増える

「国民年金」は、20歳になれば全員が支払う義務が発生しますが、「厚生年金」は、会社員になっている期間だけのもので、会社を辞めて独立したり、フリーターやパートタイマーなどになった時点で、「厚生年金」の保険料納付義務はなくなります。

国民年金保険料は、全額労働者(雇用者・受給者)が払いますが、厚生年金保険料は、会社と折半します。つまり、会社は、従業員分の厚生年金保険料総額の半分を負担しなければなりません。

いままでは従業員501人以上で、厚生年金加入義務が発生していましたが、今回の改訂で従業員数51人以上となりましたので、厚生年金保険料負担増となる企業が増えることになります。

従業員500人以下の会社では、正社員を採用すれば厚生年金に加入しなければならないのですが、正社員でない人を雇う場合は、その義務は発生しませんでした。

会社負担が増えることを、中小企業経営者はどう捉えるかですが、一時社会問題となった、社会保険料会社負担分が経営を圧迫する「年金保険料倒産」の問題もあります。

非正規労働者の手取りが減るのでは…

また、雇用者として厚生年金に加入できることを、素直に喜べないところもあります。

ただ、非正規労働者にとっても、支給額によっては、厚生年金保険料負担分の手取り額が少なくなります。

健康保険や年金のための保険料とはいえ、毎月の生活費としての手取り額が減ることをどう判断するかも考えなければなりません。

「103万円の壁」「130万円の壁」とよく言われます。これは手取り額の問題です。

年収103万円以下の場合は、所得税・社会保険料ともにかかりません。103万円を超えると所得税は発生します。

いままでは、年収が130万円を超えなければ、所得税は発生しますが社会保険料は納めませんでした。ただ、今回の改訂で、月額88,000円以上になれば(年額では判断しません)社会保険料負担の対象となります。

社会保険料負担を考慮して年収額を押さえる働き方を行う人が増えたら、たとえば、パートを多く抱える食品関連業界などからは「人手不足を引き起こしかねない」と懸念する声も出ているようです。

世帯単位で考えると、たとえば妻がパートタイマー収入が150万円を超えた場合、その年収によって、ご主人の所得税を調整する配偶者控除額が、減っていったりなくなったりすることもあります。

「103万円の壁」「130万円の壁」に加えて「150万円の壁」と言われています。

ただ、世帯内での手取り額が増えることが望ましいので、必要であれば、パートタイマーで働く場合でも、150万円を超えるぐらいに働くことも考えるとよいでしょう…

非正規労働者が厚生年金保険料負担者になることで、年金制度の収支を支えてもらおうという政府の思惑もあり、今後は、正規・非正規に関係なく、人を雇えば必ず厚生年金に加入することになるのでしょう。

在職老齢年金見直し

60歳以降も就労を促すため、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」制度で、60歳から64歳の人の年金が減らされる収入の基準額を、今の月額28万円から47万円に引き上げます。

「在職老齢年金」は、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす仕組みですが、高齢者の就労意欲をそいでいるという指摘も出ています。

このため、60歳から64歳の人については、年金が減らされる収入の基準額を、今の月額28万円から47万円に引き上げます。

一方で、65歳以上の人については、与党内からも「高所得者の優遇になる」などとして、引き上げに慎重論が相次いだことから、今の月額47万円で据え置かれました。

このことに関しては、こちらの方もご参照下さい…

受給開始年齢選択肢幅を75歳まで拡大

公的年金の受給開始の時期について現在は、60歳から70歳の中から選ぶことができますが、これを75歳までに広げます。65歳から1か月遅らせるごとに月に0.7%ずつ受給できる年金が増えるため、75歳から受け取る場合は、65歳からに比べ毎月の受け取り額が84%増加します。

年金の受給開始年齢は、現在は「60歳から70歳」の間で、自由に選ぶことができます。

高齢者の就業機会の拡大にあわせ、受給開始年齢の選択肢の幅を75歳まで拡大し、60歳から75歳の間で選べるようになります。

年金額は、65歳より早く受け取り始めた場合は、1か月当たり0.4%減る一方、65歳より遅らせた場合は1か月当たり0.7%増えます。

75歳から受け取り始めると、65歳からの場合と比べ、年金額は84%増えることになります。

だからと言って

   支給開始年齢を遅らせるほうがいわゆる「得」だ

ということにはなりません。

このことに関しては

で紹介しています。

個人型確定拠出年金「iDeco」も…

公的年金に上乗せする「個人型」の確定拠出年金「iDeco」が利用しやすくなります。

60歳未満となっている加入期間の上限が、65歳未満まで延長される一方、60歳から70歳までの間で選べる受給開始年齢の選択肢が75歳まで広がります。

また、申し込みなどの手続きが、オンラインでできるようになります。

さらに、「企業型」の確定拠出年金に加入している会社員が希望すれば、労使の合意がなくても「iDeco」に加入できるようになります。

「企業型」と併用する場合、掛金は合わせて月額5万5000円までで、このうち「iDeco」は、月額2万円までの範囲で自由に組み合わせることができます。

「iDeco」は、掛金や運用益は非課税となるメリットがあり、老後の資産形成につなげてもらうねらいがあります。

基礎年金に関しても議論が…

公的年金の将来の給付水準の見通しを示す去年の「財政検証」では、「基礎年金」の将来の給付水準が、厚生年金に比べて、大きく低下するという結果が示されました。

国会審議では、与野党双方から、懸念や対策を講じるよう求める意見が出され、付帯決議には、今後も必要な検討を行うことが盛り込まれました。

「基礎年金」の給付水準の引き上げを図るため、60歳までとなっている国民年金の加入期間を65歳まで延長し、45年間とする案も検討されましたが、今回は見送られました。

「基礎年金」の財源は、半分を国庫負担、つまり税金で賄うため、加入期間の延長は、税の引き上げとセットで議論すべきだという指摘も出ています。

年金制度にも新型コロナの影響が…

国会審議では、新型コロナウイルスの感染拡大が、年金制度に与える影響についても議論となりました。

今回の改正で、厚生年金の適用が拡大され、企業の保険料負担が増える業種は、旅館や外食チェーンなどです。これらの業種では、新型コロナウイルスの影響で経営が苦しくなっているところも少なくありません。

このため、要件を緩和するスケジュールを遅らせるよう求める意見も出ましたが、労働者の年金を確保する必要があるとして、当初の案のままとなりました。

そうなると、負担の増える企業側への目配りが必要となります。

去年の財政検証では、経済が順調に成長した場合、現役世代の平均収入の50%以上の給付水準は維持できるという試算が示されました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が、日本経済や世界経済に大きな影響を与えていることから、試算の前提となる「経済成長率」の設定が変わったのではないかという指摘も出されました。

BADシナリオが現実化されそうです。

経済への影響は数年続くという見方もあります。現役世代の老後の安心を守るために年金財政をどのように維持していくのかが引き続き、大きな課題となります。

年金積立金は、リスク資産で運用されています。

「年金」という国民の老後生活原資は、常に経済変動の影響を受けることになっているのです…

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