東京五輪が終われば「不動産価格が下がる」って言っていたよね…

東京五輪が終われば不動産価格は下落すると、五輪開催前は普通に語られていました。

事実、不動産投資をしているオーナーの方には、五輪前に投資物件を手放す人が増えていたようで、投資物件を販売しているデベロッパーは、五輪後に価格がさがるという情報の“火消し”に必死になっていました。

コロナという特殊な要素があり、五輪開催も1年延期したこともあって、通常の判断では説明できないところもあるのかもしれませんが、実際には、東京五輪開催後でも、不動産価格は下がっていないという状況にあります。

ただし不動産価格上昇は、東京都内のある限られた場所に限っての話になると思われます。

投資家の不動産ニーズは、都心ないしはその周辺に強くあり、不動産購入あるいは不動産投資をしている人たちの世界で見れば、「不動産価格は下がっていない」という表現は、ある意味では“ずれていない”のかもしれませんね。

不動産価格が下がっていない理由として、専門家は、東京の地価が上がっていることをあげています。

東京の地価が上がっている、逆に下らない理由には、東京には「価値がある」からで、それはコロナ禍を経ても大きくは「都心の移住需要」が下がらなかったことにあると、専門家は指摘しています。

通勤が多少減っても都市のアメニティーは、他の都市を圧倒していると言うのです。

実際の地価はどうなっているのでしょう…

国土交通省のホームページに令和3年9月21日付けの報道発表記事があります。そこには、令和3年都道府県地価調査では、「全国全用途平均は2年連続の下落」となったものの、下落率は縮小したとあります。

用途別では、住宅地は下落率が縮小し、商業地は下落率が拡大したとされています。

ただし、「三大都市圏」に限ってみれば、住宅地は東京圏、名古屋圏で下落から上昇に転じ、大阪圏は下落率が縮小したとあります。

商業地は東京圏で上昇率が縮小し、大阪圏は9年ぶりに下落に転じ、名古屋圏は下落から上昇に転じたとしています。

一方で「地方圏」では、全用途平均は下落が継続しているものの下落率が縮小、用途別では、住宅地は下落率が縮小し、商業地は下落率が拡大したとあります。

東京圏での住宅に関しては、五輪開催後も地価は“上がっている”というのです。

https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo04_hh_000001_00012.html

この「事実」をして、東京五輪後は不動産価格は下がらないと判断するのは早計で、あくまでも「都市圏に限る」という注釈をつけるべきでしょうし、都市圏においても「一部の地区に限る」という言葉をセットにしないと、セルサイドのセールストークに利用される危険性があるように思えます。

次に、過去開催されたオリンピックにおいて、開催後の不動産価格がどうなているかを見てみましょう。

ネットサーフィンで見つけた記事があります。「LIMO」というメディアに掲載されている株式会社FPSコミュニケーションズ浦田健代表取締役執筆の記事「東京五輪後の不動産価格は本当に下落するのか? 噂を徹底検証してみた」で、データがご紹介されています。

https://limo.media/articles/-/25476

データ部分を拡大できるので、そのアドレスも載せておきます。

https://limo.media/mwimgs/7/0/-/img_70da2947d69a2baa3723666311d383a6141795.jpg

五輪開催年と翌年を比較して、不動産価格が上がっているケースもあれば、下がっているケースも有り、このデータ内では下がっているケースのほうが多いようです。ギリシャ(アテネ)は、国の経済事情など、特殊な要素があるので考慮から外したほうが良いとして、豪シドニーに関しては、五輪開催前から不動産価格は高騰していました。

たまたま五輪開催年の2000年にシドニーを訪れ、現地滞在の日本人に話を聞くことができましたが、当時彼らは、急激にシドニーの不動産価格が上がり、賃料が高騰して借りづらくなり、「五輪のせいだ」と嘆いていたのを思い出します。

シドニーはその後、不動産価格は下落、バブル崩壊という言葉が当てはまったと思われます。

中国北京の五輪前の不動産価格高騰は異常ですね。

日本東京五輪に近い例とするなら、ロンドンのケースが参考になるのかもしれません。

冒頭ご紹介した投資物件を仲介しているデベロッパーが、五輪後でも物件価格が下落しない記事を書いてほしいと依頼されたときの根拠となるデータが、この、ロンドン五輪時のものでした。

「ロンドン五輪では五輪後、不動産価格は下がらなかった」というエビデンスに基づいた論調記事を頼まれました。

記事は書かなかったのですが、それまで散々言われていた「東京五輪後不動産価格暴落」説は、今のところでは「正解」という判定にはなりづらそうですね。

そもそも不動産価格はどのように決まるのか…

そもそも不動産価格は、その土地に落とす「お金の量」で決まります。

東京一等地の土地に落とされるお金の量と、森林に落とされるお金の量の違いを考えればよく分かるでしょう。

東京都心駅前と地方衛星都市駅前では、落ちるお金の量は違いますからね。

それゆえ、不動産価格は「遅効性」、つまり、景気に遅れて評価されるところがあります。

先程ご紹介した「LIMO」の記事でも、不動産価格の影響は、五輪だけではなく、ITバブルやギリシャショックなど、五輪以外の要素が影響しているところは多分にあると指摘しています。

アベノミクスによる大胆な金融緩和により、市中にばらまかれた資金がリスク資産に流れている状況や、その事による資産価値が上がっていること、ただ政府が想定しているほどのインフレにはなっていないことも考慮して「横ばい」という現状が生まれていると考えるのが妥当なのかもしれませんね。

今回の、コロナや五輪1年延期という特殊事情が不動産価格に反映されるには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。

コロナと投資物件価格の関係を見てみましょう…

新型コロナの影響で足元のオフィスビル空室率は徐々に上昇し、賃料(家賃)は下がっています。賃料が下がれば不動産取引価格も下がるはずなのですが、都心部の良好な物件の賃料は上がっているのです。

収益物件、いわゆる投資物件の取引価格は、賃料と期待利回りで決まります。賃料収入を期待利回りで割ることで、取引価格が算出されます。

日本不動産研究所が調べたオフィスビルの期待利回りは、東京都心の丸の内・大手町で「3.5%」と、前回調査(昨年10月)と同じだそうです。

実際には、この「3.5%」という平均値よりも低い期待利回りの物件が多く、先ほどの方程式で考えると、もし賃料収入、いわゆる分子が一定なら、分母の期待利回りが下がる(低くなる)と、取引価格は上がることになります。

海外勢の投資意欲が旺盛だそうで、業績が悪化した企業がリストラ目的で売却した本社ビルなどを、海外投資ファンドが積極的に取得しています。

海外勢には海外不動産価格との比較で日本の不動産が割安に映っているのだそうです。

ここで考えるのは、海外勢は長期保有を目的としていないのではないかということです。転売目的の不動産取得ではないでしょうか。

日本の個人投資家が不動産投資をする場合は、必ずと行っていいほど長期保有を前提とします。

ここまでの流れで「東京五輪後も不動産価格は下がらない」「投資物件価格は上がっている」という事実だけで、不動産投資を推奨するのは、どうも危険な感じがするのですが、それは間違っているのでしょうかね…

不動産投資信託(REIT)、超低金利、テレワークの影響

不動産投資信託(REIT)の活発な不動産取引も、東京五輪後の不動産価格が下がらないことに一役買っているという動きもあります。

REIT各社は賃料低下や空室率上昇で悪化した収益を、物件入れ替えによるポートフォリオの質向上で改善しようとしていると、専門家の見立てです。

超長期の低金利状態…

これが住宅ローン金利をかなり低く押さえられていて、それこそ場合によっては、賃料よりもローン返済額のほうが少ない状況になっています。

それゆえ、コロナで人が動かないことや、景気悪化懸念を逆に住宅購入のチャンスと捉え、不動産価格が下がっているときに買おうという動きが出ているようにも思えます。

そのパワーバランスが、微妙に住宅用の不動産価格を横ばい、ないしは微増に保っているようです。

テレワークの普及で、都心を離れて自然の多い郊外に引っ越す人がいると話題になっていますが、こうした動きは一部にとどまっていることも、東京の不動産価格が崩れなかった要因になっているのでしょう。

つまり、人が都心から郊外への「大移動」状態にはなっていないということです。

いくら金利が低いからと言って…

ただし、いくら金利が低いからと言って、「賃貸」と「購入」では、その責任の重さが違います。

ローンを組むということは債務者になるということで、ローン返済は、返済者の都合は考慮してくれません。

一時的に猶予措置はあっても、ローンが消えることはありません。

つまり、コロナ禍で収入が途絶えても、ローン返済日は必ずやってきて返済義務が消えることはないのです。

35年もの長期ローンを組むということは、時代変化というリスクを、自分自身の環境変化のリスクをもろに受けることになるということです。

また経年劣化で居住用物件が、購入時よりも価値が上がることは日本ではなく、土地価格にしても、必ず右肩上がりになるという保証はありません。

セルサイドは、そういうリスクは説明しません。

不動産価格が“現状では”東京五輪後も横バイあるは上昇であっても、それとローンを組むこと、不動産投資の収益化が保証されていることとは別であることを、よく理解しておきましょう…

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