食料不足が心配?新型コロナウイルス感染拡大で危惧される食料危機
食料品の入手可能性への懸念から輸出国による輸出制限の連鎖が起きて国際市場で食料品不足が起きかねない…
2020年3月31日の、国際連合食糧農業機関(FAO)の屈(クー)事務局長、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長、世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長の、連名による共同声明で、このように警告しています。
食料自給率を40%切って輸入に頼っている日本にとっては、食糧不足はかなりの大問題になりそうだという見解があります。
地球規模での食糧不足は、コロナ感染の前から地球全体に人口が増えていることから、食糧不足に関しては危惧されてはいました。
人口急増による食糧不足に関しては、需要と供給の問題かと思われますが、新型コロナウイルス感染拡大での食糧不足の場合は
・生産問題
・輸出制限
によるメカニズムが考えられます。
実際に、新型コロナウイルス感染症拡大対策としての国境封鎖やロックダウン(都市封鎖)により、人の往来がストップしています。
そのことは、農業労働者確保を困難にしているのです。
たとえば米国の場合を考えてみますと、米国での農業労働者は海外移民、主にメキシコ人に労働を頼っています。
メキシコ人は、農業労働者用ビザ「H-2Aビザ」を用いて、1年の内、短期間米国で農業に従事し、作業が終わると国に戻るサイクルを繰り返しているのですが、現在は、米国に入国できない状況です。
メキシコ側が、世界最大のコロナ感染者数を出している米国人の入国を拒否するために国境を封鎖しているのです。
世界で見られる輸出制限が心配
さらに深刻なのが「輸出制限」の問題です。
それが冒頭のFAO・WHO・WTO共同声明に繋がるのです。
自国優先…
食糧生産国が、自国民への配分を優先して、他国への輸出を規制する動きが見られました。
供給量が抑えられると、市場での価格が高騰し、経済的に貧しい途上国は、食料が買えなくなってしまいます。
米や小麦、食用油などの基礎的食品の輸出を差し止める動きが出始めたのは3月半ばからのようです。
世界最大の小麦輸出国ロシアは、国内供給を最優先するために、小麦に輸出量に対し、700万トンの制限を設けました。
また、米(コメ)最大輸出国のインド、3位のベトナムも同様の輸出制限を行っています。インドは、国内貧困層向け配給を優先したとしています。
実際に食料が足りていないというよりは、万一世界中の物流が止まった際、一番必要なのは「食料」という危機感からくる輸出制限のようです。
食料輸出制限を行っている国としては、ロシアとセルビアが先行し、ベトナムやカザフスタンなどが挙げられています。
セルビアは、ひまわり油やイーストなどの輸出を一時停止しました。カンボジアは香りコメを除くコメの輸出を規制しました。ウクライナは、小麦の輸出制限を検討しています。
こういった混乱時には、どの国も自国優先で食料を確保するため、もっぱら被害を受けるのは輸入に頼っている国です。その一つが日本だと言えるのかもしれません。
上記以外の主な穀物輸出国の米国・カナダ・オーストラリア・欧州各国は、食料の輸出規制に反対しています。
この状況を「危険」と察知して、FAOやWHO、WTOの事務局が共同で
食料供給への潜在的な影響や世界貿易・食料安全保障への意図しない結果を
最小限に抑えるように注意を払わなければならない…
と、過度な輸出規制をしないことを、各国に求める共同声明を発表しています。
食料輸出制限の影響は…
日本への影響を考えるときに思い出されるのが、2008年の穀物危機による「コメ騒動」ですね。
当時の穀物危機の原因は、脱化石燃料の動きがあり、トウモウロコシを、食用やエサ用ではなく、ガソリンの代わりとなるエタノールの原料として使用することが増えたことで、食用やエサ用の量が極端に減ったことだけでなく、価格が大きく高騰しました。
飼育肥料を必要とする、豚や牛の価格も高騰しました。
天変地異や害虫被害などで穀物生産が被害を受けたのとは異なり、農業以外の要素により引き起こされた食料危機という点で、今回のcovid-19も当時と似ているとも言えます。
日本の自給率が議論されることから、世界の穀物輸出国による規制の影響をm日本は大きく受けるのではないかと危惧されるのです。
価格高騰も供給量が減れば高騰するのが市場の原理ですが、このことは、途上国にとって、食料を買う経済力があるかどうかということは、決定的に重要になります。
2008年にインドはコメの輸出を禁止しましたが、それは、インドが不作になったわけではありません。
米国のエタノール政策によって穀物の国際価格が高騰したことで、穀物は価格が低いインド国内から高い価格の国際市場に輸出されることになるので、自由な貿易に任せることを規制したのです。
収入のほとんどを食費に支出している貧しい人は、食料価格が2倍、3倍になると、食料を買えなくなり、飢餓が発生します。
「Beforeコロナ」の社会では、グローバルであることメリットと考え、物流の進化から、安い地域で生産されたものを国内に輸入しで国内で売ることで、競争力をつけてきました。
海外に生産拠点を持っていた多くの工業製品は、現在製造ラインが止まっています。
メリットが強くクローズアップされてきた「グローバル」の概念が見直されることもあるでしょう。
しかし、「Afterコロナ」の社会では、新型コロナウイルスと付き合い続けることが求められることになり、「ローカルの力」が再認識されるかもしれません。
食料を輸入食材に頼り続けることは不安が残るため、国内食材に注目が集まることが考えられます。
ある場面では「グローバルからローカルへ」の見直しが出てくるところもあり、「集中から分散へ」の意識改革が求められることも出てくるのが「ポストコロナ」社会と言えるのかもしれません。
まさに「ニューノーマル(新たな常識)」を模索してくことでしょう…