話題の「45歳定年制」を考える~その1
サントリーホールディングスの新浪剛史社長は9日、経済同友会の夏季セミナーで、ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べたことが、大きな話題になっています。
新浪氏は政府の経済財政諮問会議(議長・菅義偉首相)の民間議員を務めるなど論客として知られています。
ローソンを立て直した人…と言えばおわかりですかね。
“おにぎりならローソン”というブランディングを仕掛けた人です。
政府は、社会保障の“支え手”拡大の観点から、企業に定年の引き上げなどを求めているところでした。
つまり「人生100年」の旗のもと、60歳を過ぎてもまだ働けるとし、企業に定年延長を求めているというか、義務化ですね。
現行の高年齢者雇用安定法は60歳未満の定年を禁じ、65歳までは就業機会を確保することを企業に義務づけられています。
また、70歳までの定年延長が「努力義務」になっています。
新浪さんの提案は、この国の方針とは相反するものですが、あえて
「国は(定年を)70歳ぐらいまで延ばしたいと思っている。これを押し返さないといけない...」
と発言しています。
年金をもらうよりも社会保険料を負担する側になって...
というのが「人生100年」の本音です。
「人口減少×少子高齢化」社会において、社会保障を維持させるためには、いかにして社会保険料負担者を増やすかという課題解決の延長線上に「人生100年」の旗があり、さらに、「女性活躍」の旗を立てて専業主婦を社会に引きずり出し、「1億総活躍」の旗を立てて高齢者や障害者にも社会保険料を負担してもらおうとしたのです。
一方、新浪氏は、社会経済を活性化し新たな成長につなげるには、従来型の雇用モデルから脱却した活発な人材流動が必要との考えを示しました。
新浪氏が言いたいのは「会社に頼らない姿勢が必要」ということで、「45歳定年制」は、あくまでも一つの“区切り”を示したものだと思います。
現実としては、たとえば銀行では、45歳までにある程度の役職についていないと、出向が待っているということになるそうで、まあ強制転職のようなものかな。
銀行に限らず、45歳まで役職がつかないのは、まあ普通に考えれば「リストラ対象」と言われるでしょうね。
それでも、45歳定年制度という表現が与えるインパクトは大きですね。
新浪さんが語ったのは
「(定年を)45歳にすれば、30代、20代がみんな勉強するようになり、自分の人生を自分で考えるようになる」
だから、日本の多くの企業が採用している年齢が上がるにつれ賃金が上昇する仕組み、いわゆる年功序列についても、「40歳か45歳で打ち止め」にすればよいと語ったものでした。
新浪さんが訴えたい本質を汲み取らないで、「40歳か45歳」の「45歳」という数字のみに強く反応するという現象の方が、なにか恐ろしいようにも思えます。
字面からの感覚ではなく発言の真意を読み取ろう…
あまりの反響がすごく、翌日の会見で新浪氏は
「首切りをするという意味ではない。早い時期にスタートアップ企業に移るなどのオプション(選択肢)をつくるべきだ」
と弁明することになりました。
45歳を迎えても「希望される方々とは契約するのが前提」と述べ、会社側がその後の仕事の機会を作る必要性に言及したが、逆風は収まらず、なんと「サントリー不買」を宣言するユーザーまでもが現れる事態となりました。
字面だけで反応する姿勢
ことばの真意を読み解こうとしない風潮…
この手の批判をする人たちの意見を聞いていていつも思うのですが、言葉から来るインパクトのみ、感覚で反論しているように思えます。
SNS社会だからなのか、マスコミの「発言切り取り」の報道にも責任があるのかもしれませんが、今回の新浪氏は、絶対に45歳にはやめさせるとかは言っていないし、なぜ「45歳定年」のようなものを訴えたたかという真意、サラリーパーソンの人たちに対して、会社にパラサイトしているだけで人生を過ごす生き方はや
めようと言っていて、それを40歳になって気づくよりも、20歳代から考えておくことが大事だと訴えているのです。
なにより、コロナ以前のように、会社がずっと従業員の面倒を見続けられる状況ではないということを理解してもらいたい、その上で、自分たちの足で立てるように普段から考えようと、新浪氏は述べているのだと思います。
コロナ後の経済は、社会的距離(Social Distancing)が強く求められ、いわゆる「8割経済」を余儀なくさせられるのですから、会社としても売上が減ることの対応として、社内業務の効率化には積極的に取り組まなければならなくなりますし、業務縮小、業態変容も迫られるでしょう。
会社と従業員の関係は、大きく変わってくると思われます。
なにより高所得者窓際族は淘汰されるのは、仕方がないと思いますね。だから、自分の能力を磨く、個を磨くことが大事になってくるのです。
「45歳定年制」に対するアンチコメント
報道を受けての記者の意見として
新浪社長は多くの日本企業が導入している年功序列、終身雇用に一石を投じたかったのかもしれませんが、この主張だけ聞くと「雇用する側の身勝手な理論」と多くの人たちに解釈されてしまう...
と指摘している記事を見かけます。
きっと従業員の気持ちを代弁しているというのでしょう。
「実力主義」を、多くの従業員は受け入れたくないという思いが根底にあると思います。
これからの社会は、AIやロボットによる業務の効率化は、飛躍的に進みます。
AIやロボットとは、敵対ではなく共存です。そのうえで、会社の一員として何ができるか、どのように社会に貢献し、会社に利益を生むことができるかを考えなければなりません。
それでも、報道では、このような意見が見受けられます。
転職を繰り返すのが日常で、実力成果主義の欧米型のシステムを導入したいという意図だとしても、今の日本企業で45歳を超えた年齢の人材を「優秀だから」と採用するのは一握りの企業のみで、日本の社会構造で導入するのはそぐわないと感じますし、大企業が給与の上げ幅を抑えて人件費を安くすることが狙いだ...
現在の40~45歳は「就職氷河期世代」ということで、会社にしがみつく気持ちはわからなくはないです。
この年代は、まだまだ子供の教育費もかかり、住宅ローン返済に追われる年代でもあります。
45歳になっても正社員になれない人もいる...
その指摘も、ごもっともです。
正社員になれたのなら、スキルを磨いて給料を得られる人材になるように努力しましょう。今までのような「時間売り」労働、会社に行くだけでお金がもらえる「メンバーシップ型」労働は、多くの企業が受け入れられなくなるでしょう。
「ジョブ型」とよばれる成果が評価対象になり給料の額が決まる人事評価システムを「欧米化」と呼ぶのであれば、それは時代の要請だと理解すべきで、そうでないとグローバル社会での競争には勝ち残れないということを、従業員側が理解しなければならないと思います。
非正規雇用の問題は、社会制度の話になり、まさに国会が解決すべき問題です。
政治家が、目を背けてはいけませんね。
確かに「言葉の選び方、伝え方などに問題があるのでは」という指摘は、あると思います。
経済界のシンポジウムでの発言であることが、どこかで「経営者vs労働者」というイメージがついてしまったのかもしれません。
分断は対立構図の上にあるものですが、どうも何かにつけて「vs構図」を作りたがる風潮があるのは、いかがなものかと思います。
マスコミの問題ですかね。
「日本経済を発展させるにはどうすればよいか?」についての議論の場で出てきた、新浪氏のアイデアです。
それだけに
単なるリストラではないか...
45歳で転職できる人など限られている...
人件費を抑えたいだけ...
雇われる側としては不安になる...
という意見も出てくるのはわかりますし、なにより、自分たちの世界に置き換えると、教育費や住宅ローンがここに乗っかってくると、「不安」が増幅されたのでしょうね。
自分の力に自信がない
自分の能力に自信がない...
この自己肯定感とでも言うのでしょうか、日本人は総じて低いことにも問題があるようです。
こういう話に広がると、教育のあり方にも話が発展していきそうですね…