内部留保金が企業存続の切り札に…コロナ後は企業はお金を使わないぞ 個人家計にも内部留保金を
“貯め込みすぎ”と批判を受けていた企業の「内部留保金」ですが、このコロナ禍では、企業存続の「切り札」となっているようです。
内部留保金は、企業が稼いできた利益の総額である利益剰余金のことで、会社の設立から現在までの毎年度の最終利益の累計額から配当金などを差し引いた額です。節税などでせっせとプールしてきたものをなぜ従業員に還元しないのかという批判にさらされていたものです。
コロナ禍においては、約460兆円と言われる内部留保金が、「緊急予備資金」としての役割を果たすことになったということで、個人家計においてもストックの大切さを思い知らされます。
ただ内部留保金の話は、企業と言えども大企業に限ります。
政府が4月下旬に公表した令和2年版の中小企業白書によると、中小企業の深刻な経営環境が浮き彫りになっています。
収入がなくなった場合を念頭に、現金や預金などの手元資産で、従業員給与や家賃といった固定費をどれだけ払えるかを試算したところ、
金融・保険業を除く全産業の経営体力は1年10カ月弱
このうち、飲食サービス業は5カ月強、宿泊業は7カ月弱
と短かったとのことです。
資本金1000万円未満の規模の小さい企業だけでみると、
全産業の平均体力は1年未満
宿泊業は3カ月以内に経営が立ち行かなくなる
というのです。
日本銀行の3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、資金繰りが「楽」と回答した割合から「苦しい」と回答した割合を差し引いた指数は、
大企業18、中小企業8
と、そろって前回調査(昨年12月)から3ポイント悪化したものの、大企業の指数は中小の2倍強と、資金繰りにはまだ余裕が感じられると見られます。
大企業はこういうときのために内部留保を積み上げていると思うので、
しっかりと活用してもらいたい…
西村康稔経済再生担当相は3月の記者会見でこう語り、多くの大企業は自助努力でコロナ禍を乗り切れるとの見方を示しました。
内部留保金は、企業にとっては「緊急予備資金」
財務省の法人企業統計によると、日本企業が内部留保を確保しようと力を入れ始めた背景には、2008年のリーマン・ショック時に、「銀行がなかなかお金を貸してくれない」と資金繰りに四苦八苦した経験があるようです。
内部留保は、東日本大震災直後は7年連続で過去最高を更新しています。内部留保金額は
2011年度 約280兆円
2012年度 約300兆円突破
2016年度 約400兆円突破
右肩上がりですね。
日本を代表するグローバル企業のトヨタ自動車の2019年12月末時点の利益剰余金は約23兆円に達し、現預金は5兆円を超えているとのことです。
アベノミクス“第一の矢”として放たれた日銀の大規模金融緩和で、円安・株高となり、輸出企業を中心に日本企業の利益が大きくアップしたことも、内部留保がたまりやすくなった要因とみられます。
こうした巨額の内部留保にもかかわらず、ここ数年、賃上げや設備投資は伸び悩んでいたことを、麻生太郎財務相は
(内部留保が)会社員の給与や設備投資に使われれば、
景気回復をもっと広く浸透させることができた
と毎年のように企業に苦言を呈してきたようですが、内部留保金が増える背景を考えると、企業としても、いざというときのために貯めておこうと思う気持はよくわかりますね。
いざというとき、銀行はお金を貸してくれないですし、国は手を差し伸べてはくれないですから、最後は自分でなんとかしなければならないことは、企業側はよく知っていますからね。
今回もそうです。
こんな世界的ウイルス染拡大による経済危機のときでさえ、国は何もしてくれないし、対策は見せるだけで実行が遅いですからね。
ますます企業は、内部留保金を貯めるメリットを強く意識したのではないでしょうかね。
個人家計にも内部留保金が必要
それは個人も同じで、国の制度に頼るばかりではいけないことは十分に思い知らされ、最後は自分でなんとかしなければならないことがよくわかりました。
一時は、財務省を中心にため込み過ぎた内部留保に課税する案まで検討されていたようでしたが、今となっては、ふざけた話だと企業側が怒っているのもよくわかります。
まあ当時は世論が「企業は悪、内部留保金は悪だ」という風潮でしたからね。世論とはそういうものなのかもしれません。
世界中で企業の資金繰りが苦しくなる中、日本企業の潤沢な内部留保が海外からもうらやましがられているようです。
自民党の甘利明税調会長は今年3月の会見で、西村経済再生担当大臣同様に
企業は今こそ雇用を支えてもらいたい
そのための現預金の留保ではないかというメッセージを強く出していきたい…
とハッパをかけたようですが、これって
国は何もしないから企業が溜め込んだお金でなんとかしろ…
という風にも聞こえます。
国への恨み節はともかくとして、企業に求められるのは
「従業員は宝、従業員は財産」と今こそ内部留保金を使う
「従業員は使い捨て、組織の駒」という発想から内部留保金を使わない
かという姿勢もあります。
経団連の中西宏明会長も4月下旬の会見で、内部留保について
従業員、協力企業、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の維持など生き残るために打つ手は多様。
有効なお金の使い方を考えていく…
と応じたようではあります。
でも、従業員側も、権利の主張ばかりではなく、自分が企業にとって財産であることをアピールできるかどうかも問われます。
テレワーク実施で、従業員の生産性が可視化されたという評価もあります。
この際、企業と従業員との有り方を、考え直す良い機会なのかも知れませんね。
内部留保金至上主義による景気悪化懸念
つまり、“いざ”というときのために現預金が必要という企業の主張は、コロナ禍で立証されたことになるので、企業はますます内部留保金をためて、感染拡大の収束後も設備投資にはお金を回さなくなり、人件費も抑えられることで、経済は成長しなくなると思われます。
企業はますますお金を使わなくなります。
これも、政府への信用が背景にあることになり、自己防衛としては仕方がないことで、企業としてはお金を貯め込むのは仕方がないでしょう。
景気を動かす両輪は「企業の設備投資」と「個人消費」ですが、感染拡大収束後は、企業は設備投資を抑え、給料が上がらないことで消費も細るという、デフレ経済が待っていることが、はっきりとしました。
企業は会社存続に命をかけ、従業員を守るために、「守銭奴」という非難に耐えているわけで、私達も大衆迎合に流されず、国を当てにしないで、資産を作り守ることをやっていきましょう。
企業の内部留保金のようなものを、個人家計でも作ることの大切さを学びましょう。
今回のコロナ禍では、感染拡大収束後も日本経済は決して良くならないことと、真の意味での「自助努力」を、学んだような気がしますね…