「こども未来戦略会議」の素案がまとまりました…
「こども未来戦略会議」とは…
全世代型社会保障構築本部の下に設置されたもので、こども・子育て政策の強化を図るために、幅広い関係者の知見を踏まえ、必要となる施策の内容、予算、財源について総合的に検討を深めるものになっています。(内閣官房ホームページより)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/index.html
少子化は静かなる有事である…
社会経済の持続的な発展を実現し、社会保障制度や地域社会の維持を図るためにも、あらゆる政策手段を組み合わせて、従来とは次元の異なる少子化対策に果敢に取り組んでいく必要があるとしています。
そのためには、こども・子育て政策の強化について、具体的な施策の内容、予算、財源の在り方について検討する必要があるとして、「こども未来戦略会議」を開催することとなりました。
全世代型社会保障…
社会保障といえば、高齢者向けというイメージがありますが、若者層をもケアするという強いメッセージが、この「全世代型」を強調することに込められているのでしょう。
このほどまとまった「素案」では
- 児童手当支給要件の緩和
- 3人以上のこどもを扶養する世帯の大学授業料の無償化
が盛り込まれました。
児童手当について所得制限を撤廃するとともに、今は中学生までとなっている支給対象を18歳まで広げるとしています。
3人以上の子どもを扶養する世帯に対しては、第3子以降は月額3万円に増やし、第1子が22歳に達する年度まで増額措置を継続するほか、大学授業料の無償化も行うとしています。
さらに、ひとり親世帯を対象にした児童扶養手当の支給要件も緩和し、満額を受け取れる年収の上限を160万円未満から190万円未満に引き上げるとしています。
このほか、両親がともに14日以上、育児休業を取得した場合の育児休業給付の給付率を引き上げ、28日間を上限に、手取り収入が実質的に10割にすることなども盛り込まれています。
一連の対策の予算は、今後3年かけて新たに3兆6000億円程度を確保するとしています。
財源については、当面は国債を発行して賄い、社会保障費の歳出改革や、国民や企業から広く集める「支援金制度」の創設などを通じ2028年度までには安定的な財源を確保するとしています。
(以上、NHK報道記事参照:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231211/k10014284881000.html )
財源の議論は…
今後の安定的な財源として、
- 既定予算を最大限活用することで1.5兆円程度
- 徹底した歳出改革で1.1兆円程度
- 医療保険料と合わせて徴収する仕組みの「支援金制度」で1.0兆円程度
を確保するようです。
すでにある予算の活用の例として、政府は、厚生年金保険の対象となる企業が従業員の賃金に応じて負担している「子ども・子育て拠出金」を挙げています。
歳出改革では、医療や介護分野でデジタル化を進めて効率化を図るほか、医療費や介護費について高齢者の自己負担割合の見直しも検討するなどとしています。
「全世代型」という表現が、ところどころに効いているようで、高齢者の自己負担を殖やして子育て世代に還元するといった感じにとれますね。
政府は、これまで進めてきた高齢化に伴う社会保障費の伸びを抑える取り組みで、昨年度までの10年間で国と地方合わせて毎年平均1800億円の歳出を抑制したとしています。
2028年度までの6年間も同じペースで歳出改革を進められれば、1兆1000億円程度の財源を確保できると説明しています。
安定財源としての「支援金制度」は医療保険料の上乗せ…?
新たな「支援金制度」で2028年度までに1兆円程度を確保するものとして、「医療保険料の上乗せ」を検討しているようですが、これにはすごく違和感を感じてしまいます。
医療保険料の上乗せによる徴収は、医療保険料を引き上げたうえで、それを少子化対策に流用することでしょうか。
そりゃ“全世代型社会保障”ということで、社会がこどもを育てるという思いは理解できますが、そもそも社会保険料(年金保険料や医療保険料)と政策実現のための財源としての手段は、その性質も異なりますし、哲学も違います。
まずは保険料計算方法
税金計算には、人的控除(扶養控除、配偶者控除等)や物的控除(生命保険料控除等)の控除枠がありますが、社会保険料にはありません。年収によりダイレクトに計算されます。
そもそも保険制度は、加入者が支払う保険料の総額が、その加入者が受け取る給付総額の期待値と一致するのが基本のはずです。この場合の医療保険料の上乗せ分は、少子化対策としてのものになるので、将来保険料負担者が将来受ける社会保障サービスの拡充に当てられないことは明白です。
もう社会保険制度の精神に反します。
また、子育て世代が恩恵を受ける仕組みとなっていますので、子どもがいない世帯、子どもが成人した世代などは、負担するのみで恩恵は得られないということになります。
社会がこどもを育てるという主旨は理解はできますが、広くコンセンサスを得なければならないことではないでしょうか。
政府が言う「所得の再配分」機能とは、性質が全然異なります。その観点で言うのなら、税金を充てるべきでしょう。
増税イメージを嫌っての社会保険料利用とは、たちが悪いですね。
少子化対策に必要ならば、政府は増税から逃げるべきではありません。社会保険料を活用するのなら、広く国民に信を問うべきでしょう…